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日本語学入門2(大江元貴) の変更点
■''[[文学・語学科目入門 一覧]]''
#contents
|BGCOLOR(#555):COLOR(White):200|520|c
|BGCOLOR(#fc2):COLOR(Black):''分類''|''国文学科必修''|
|区分|[[国文学科]]科目/一般|
|履修条件|第2回授業までに Canvas LMS に自己登録すること|
|単位数|2|
|講師|[[大江元貴]]|
|学位等|文理学部(学士(文学))|
*概要 [#q1f88e6e]
この授業は日本語学の諸領域を概観しながら、受講生自身が日本語学的な視点をもって日本語を観察・分析することができるようになることを目指す。
評価の割合は授業内容に関する期末エッセイ(レポート)が30%、授業内テスト(授業の終わりに行う内容理解を確認するための確認テスト)が70%である。
質問等は授業前後かメールで対応。
#br
荻野綱男の『現代日本語学入門 改訂版』(明治書院 2018年 第1版)を教科書とする。(持参した方が良い。)
この科目は文理学部(学士(文学))のディプロマポリシーDP1,2,3,8及びカリキュラムポリシーCP1,2,3,8に対応している。
*講師の印象 [#ucc03ead]
*令和七年度(2025年度) [#a2becd30]
後期のみ開講。前期に開かれる日本語学入門1を取ってから受けるのがおすすめ。
日本語学入門1について[[日本語学入門1(井上優)]]より難しいという噂があるが、大江元貴曰く日本語学入門2は1よりも取っ付きやすい内容であるとの事。
毎授業後に内容理解を確認するための確認テストがある。(欠席避けるべし)
授業資料はNotionで共有される。(第三者へ譲渡したり、SNSに掲載するなどの行為は禁じられている。)
#style(class=submenuheader){{
**後期
}}
#style(class=submenu){{
|BGCOLOR(#555):COLOR(White):200|520|c
|BGCOLOR(#fc2):COLOR(Black):授業形態|対面授業(一部遠隔授業)|
|日程/教室|木曜日 五限目/3205教室(三号館二階五番教室)|
授業最後の10-15分の時間を使って5問程度の小テストを実施する。授業を普通に聞いて理解していれば難なく満点をとれる難易度とのこと。
CanvasLMS上で提出するので、PCやスマホなどの電子機器を必ず持参せねばならない。機器を忘れた場合の代替措置はない。
解答可能時間は17:30-17:50の間。時間内であれば何度でも解答可能。また、他の受講生と相談しながら取り組んでも良い。
ただし、問題文は教室のスクリーンでのみ提示される。
***第一講目の内容
授業の説明。これから扱っていくトピックに軽く触れる。早めに終わった。
***第二講目の内容
教科書「4 文章・談話とテンス・アスペクト」「5 さまざまな文章・談話」「6 文体のバリエーションと変化」[pp.103–109]
を次回までに予習するようにとのこと。
#region(指示詞)
''指示詞''
指示詞は現場指示と文脈指示とに分けられ、現場指示は更に融合型と対立型に分けられる。
現場指示(融合型)は物理的・心理的な距離で使い分けられる。
例えば遥か遠くに見える富士山に対して「これ」を使うが、直ぐ近くにいる知らないおっさんには「あれ」を使う。
>''[現場指示(融合型)のコ・ソ・アの使い分け]''
コ系:話し手(と聞き手)から物理的・心理的に近距離にある対象を指示
ソ系:話し手(と聞き手)から物理的・心理的に中距離にある対象を指示
ア系:話し手(と聞き手)から物理的・心理的に遠距離にある対象を指示
#br
>''[例]''
〔新幹線の窓から見える富士山を見つけて隣の席の友人に報告する〕
あ、ねえ見て見て!見える?{''これ/あれ''}がみなさんご存知の富士山ですよぉ、あー早く行きたいなあ。
…ところでさ、向こうに座ってる人がさっきからずーっとこっち見てんだけど、ほら{''あの''}人。
>''[現場指示(対立型)のコ・ソ・アの使い分け]''
-僕の持ってる{''この''}本と君が持ってる{''その''}本を交換しよう。
-歯医者:〔奥歯を器具で触りながら〕{''ここ''}の歯、痛みますか?
患者:あ、{''そこ''}めちゃくちゃ痛いです。
治療している間、歯を自由に出来るのは医者であり、本人とは言っても「そこ」を使う。
現場指示にせよ文脈指示にせよ、日本語の指示詞の運用を考える上では、
その対象が自己(話し手)の領域に属するのか他者(聞き手)の領域に属するのかという観点が鍵になる。
#endregion
#region(接続詞)
''接続詞''
接続詞の基本的機能は文と文の論理的関係を表すこと。
>''[例]''
-甲. 彼は大学教授だ。世間の話題について詳しい。
-乙. 彼は大学教授だ。だから世間の話題について詳しい。
「順接(原因→結果、理由→主張)」の関係
-丙. 彼は大学教授だ。しかし世間の話題について詳しい。
「逆接」の関係
接続詞のその他の側面として話し手の文に対する認識的態度を表すことが挙げられる。
>''❶ 後件の文のムードの制約から見る''
-「ところが」の後件:話者にとって予想外の内容
今日は晴れた。{しかし}明日は雨が降るだろう。
今日は晴れた。{しかし/ところが}明日は雨が降るそうだ。
-「それとも」の後件:話者にとって未確定の内容
コーヒーをお願いします。{あるいは}紅茶でもいいです。
中華がいいですか。{あるいは/それとも}和食がいいですか。
>''❷ 話し言葉における接続詞の使用から見る''
-『日本語日常会話コーパス』(CEJC)、会話ID:T021_007
祖母 来年が五年生でしょ 五年六年となるとやっぱりもうコンサートとか行けなくなるのかね 忙しくなるんだろうか
孫娘 当たったら行くよ
祖母 ふーん いつもあれだけ 嵐だけ ほかのも
孫娘 嵐だけ(おー)嵐が初ライブだもん
祖母 ふーん いいよね ふふん **しかし**よく当たったよね
〈これまでの話題から予測されるようなことではない話題を持ち込む〉という話し手の態度を示す表現として「しかし」が用いられることがある。
接続詞は単に文と文の論理的関係を表すだけではなく、談話・テクスト・文章の中で生じる相手とのインタラクションや話者の思考過程が反映される。
#endregion
***第三講目の内容
教科書 文字と表記「1 日本語で使われる文字の種類と成り立ち」[pp.110–115]を次回までに予習せよとのこと。
#region(歴史的現在)
''歴史的現在''
歴史的現在とは過去の事象を非過去形を用いる現象[→ 教科書p.103 (12)]
>歴史的現在の例
【駅伝の実況】あーっと大竹、手に握ったタスキを''落とす''。後ろについていた野村に追い抜かれて順位が''逆転します''。
【会話】あっ、大竹がタスキを落としたよ。で、後ろの選手が追かれて順位が逆転したよ。
【サッカーの実況】さあ一旦、ボールを''戻す''。また縦パスを''入れる''。おっと、ここで高橋自らドリブルで''持っていく''。中に''切り込む''!シュート!
「過去の出来事はタ形、未来の出来事はル形」[教科書p.93 (61)]という日本語のテンスの文法の一般則から逸脱している。
同じ内容でも普通の家族の会話では歴史的現在は使いにくい。歴史的現在は「小説」「脚本ト書き」「実況」といった特定の文章・談話を特徴づける文体の一つ。
#endregion
#region(人称制限)
''人称制限''
日本語における通常の会話では、「痛い」「嬉しい」などの感覚や感情を表す述語の主語は一人称に限られ、三人称は不自然になる。=人称制限
ただし、「小説」や「実況」などでは、認識的ムードを用いずに三人称主語の感覚や感情をそのまま表すことができる。
感覚・感情述語をめぐる人称制限は、文章・談話のジャンルによって異なる。
>人称制限の例
私は嬉しいよ。
太郎は嬉しいよ。←??
太郎は嬉しい筈だよ。
【小説】いつもと同じ予告も約束も一切ナシの訪問である。それでも%%%月子は嬉しかった%%%。
【実況】あと一点が届きませんでした!いい時間帯もあっただけに日本代表、特にキャプテンの長谷部は非常に%%%悔しい%%%!
#endregion
#region(文章・談話と文法の関係)
''文章・談話と文法の関係''
-''七夕短冊文法''
「「七夕の願い事を短冊に書く」という文章・談話では、「〜ますように」という文の組み立て方が最も自然でそれ以外はあまり自然ではない」
という日本語に関する知識を日本語話者は持っている。
>七夕短冊文法の例
東京大学に合格しますように。
東京大学に合格します。←?
東京大学に合格するように。←??
-''歯医者診療場面文法''
歯科の診療場面では通常の会話では「あける」(他動詞)が使われるような状況で「あく」(自動詞)が使われることがある。
しかし「痛かったら手挙がってください」「はい、口閉まってください」などという発話は聞かないし、恐らくその話者も家族に「ごめん、窓あいてくれる」などとは言わない。
「歯科診療場面」という特定の談話と結びついた文体と考えた方が建設的。以下のような考えをしない方が良い。(大江先生 談)
>歯医者診療場面文法を巡る解釈
-[[Yahoo!知恵袋の質問①>https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10117425885]]
〔質問〕歯医者さんや衛生士さんで「口あいてください」と言う人が多すぎます。大学でそう教わるのでしょうか。
〔ベストアンサーに選ばれた回答〕「口を開いてください」とは教えないと思います。最近大卒者の国語力に異常が起きているように思います。
-[[Yahoo!知恵袋の質問②>https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14117592014]]
〔質問〕歯医者さんや衛生士さんで「口あいてください」と言う人が多いです。(後略)
〔ベストアンサーに選ばれた回答〕その人にお願いしてるんじゃなくて、口自体にお願いしてるんでしょう。口、開いてください。と 馬鹿なんでしょう。
#endregion
#region(文体のバリエーションと変化)
''文体のバリエーションと変化''
ある特定の文章・談話の文体に観察される世代差、例えばLINEの句点が挙げられる。
中高年層:LINEは一般の書き言葉やメールと近いジャンルという認識→一般の書き言葉と同じように句点を使用。
若年層:LINEという文章・談話はむしろ話し言葉に近いジャンルという認識→ 句点を使用しないのがデフォルト。句点があるとそこに何らかの意味を見出そうとする。
#br
当然のことながら、若者がLINEで全く句点を使用しないわけではない。
以降の内容は以下の論文の内容に基づく。
→金田杏美(2023)「若者世代のテキストメッセージにおける句点の使用と修辞的効果」(金沢大学国際学類日本・日本語教育コース 2022年度卒業論文)
>若者が句点を使う時・ケース
-ケース1:感情の表し分けをする句点
感謝や恐怖、怒りなどを「心から感じている」ということを表現する手段として句点を使用。
“真剣に伝える”というニュアンスが出るため、「やったー。」「サンキュー。」などの「ノリが軽いメッセージ」の場合には句点が使われにくい。
-ケース2:フォーマルさを表す句点
フォーマルな(改まった)場面では若年層のLINEでも句点が現れやすい。
また、その派生使用として「良い友人に対してあえて責めるような発言をする」「寝坊したという失敗を面白おかしく報告する」など、
関係性や場面と本来はマッチしない“真剣・冷静さ”を装った冗談めかしたメッセージにする。
本来はフォーマルな(改まった)表現を、改まりとはマッチしない関係性や場面で使用することで
冗談めかした発話や突き放した発話にするというのは敬語においても観察される。[→第7・8回「敬語」]
#endregion
#br
「日本語」と一口に言っても、その内部は実に多様。
日本語の多様性として様々な方言[→第9・10回「方言と共通語」]が存在することはよく知られているが、
それだけでなく共通語の中にも様々な文章・談話のジャンルが存在する。私たちは文章・談話のジャンルごとに異なるスタイルで日本語を運用している。
文章・談話/文体という視点は、「日本語」内部の多様性や揺れ動きを平等に、ありのままに観察する上で欠かせないもの。
「話し言葉の文体/書き言葉の文体」「フォーマルな文体/インフォーマルな文体」といった汎用的な文体差だけでなく、
「小説」「実況」から果ては「七夕で短冊に願い事を書く場面」「歯科医療者が治療をする場面」のような特定的な場面の違い
にも敏感に反応して、文法のあり方さえ変化させている。
LINEにおける句点の(不)使用を、世代論だけで語るのではなく、場面差にまで踏み込んで観察することで
より広く・深く句点の使用動機について理解することができるようになる。
***第四講目の内容
#region(文字の分類)
''文字の分類''
|>|種類|説明|例|h
|表音文字|音節文字|1文字=1音節|仮名「だいがく/ダイガク」/da i ga ku/|
|~|音素文字|1文字=1音素|ローマ字(ラテン文字)「a, b, c, …」&br;ギリシャ文字「α, β, γ, …」&br;キリル文字「А, Б, Г, …」|
|>|表意文字|1文字で意味を持つ|漢字「広、廣、广」&br;トンパ文字(※チベット地方ナシ語)&br;チュノム(※ベトナム語 現用なし)|
#endregion
#region(日本語の表記の特徴)
''日本語の表記の特徴''
-''正書法がない(表記が1つに定まらない)''
*Boku-tachi-wa shiken-no moshikomi-o okonatta-atode gyoza-o tabeta.
*僕達は試験の申込を行った後で餃子を食べた。
*ぼく達は試験の申し込みを行なった後でギョウザを食べた。
-''異なる書字方向の併用(混用)''
縦書きか横書きか,右から読むか左から読むか
-''異なる文字種の併用(混用)・分かち書きをしない''
|字|数|種類|h
|漢字|2136(常用漢字)|表意文字|
|平仮名|46|音節文字|
|片仮名|46|音節文字|
|ローマ字|26|音素文字|
文節が概ね[【漢字 or カタカナ】+【ひらがな】]になり、意味の切れ目が見えやすい。異なる文字体系を組み合わせる事で文の構造が見えやすくなっている。
このような特徴は学問的に見ても日本語だけである。
#endregion
#region(現代以前の仮名遣い)
''現代以前の仮名遣い''
|年代|出来事|例・備考|h
|4世紀末〜5世紀はじめ&br;(古墳時代)|漢字の伝来・定着|・漢文での使用&br; 古(いにしえ)に天地(あめつち)未(いま)だ剖(わか)れず、陰陽(めお)分(わか)れず…[[[日本書紀>https://dl.ndl.go.jp/pid/1286872/1/3]]]&br;・万葉仮名としての使用&br; 獲加多支鹵大王(わかたける大王)[稲荷山古墳出土鉄剣]&br; 春尓成来鴨(はるになりにけるかも)[万葉集]|
|9世紀はじめ(平安時代初期)|片仮名の成立(漢字の点画の一部省略等から成立)||
|9世紀後半(平安時代前半)|平仮名の成立(万葉仮名をくずした草仮名から成立)||
「高/髙」「国/國」のように、別の字体でありながら同じ字種と扱われるものを異体字と言い、近代までは平仮名にも複数の異体字があった。
現在通用していない平仮名の異体字を変体仮名という。[[変体仮名一覧>https://codh.rois.ac.jp/char-shape/hentaigana/]]
#endregion
#region(現代のローマ字)
''現代のローマ字''
→[[「ローマ字のつづり方」(1954年 内閣告示)>https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/naikaku/roma/index.html]]
|方式|特色|>|>|>|>|>|>|>|例|h
|訓令式|仮名依拠の表記|si|zi|ti tu|hu|sya syu syo|zya zyu zyo|tya tyu tyo|sando/sanpo|
|ヘボン式|音声依拠の表記|shi|ji|chi tsu|fu|sha shu sho|ja ju jo|cha chu cho|sando/sampo|
基本は訓令式、場合によってヘボン式とされているが、実際にはヘボン式の方が通用している
→内閣告示改定の動き[[「「ローマ字表記をヘボン式に」内閣告示70年ぶり改定へ 文化審が答申」[日本経済新聞 2025.08.20]>https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF209YR0Q5A820C2000000/]]
[[「令和3年度 国語に関する世論調査」>https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/kokugo_yoronchosa/pdf/93767401_01.pdf]]でヘボン式が概ね選好されているという実態が改めて確認された。
ただし、選好の偏りは一様ではなく、訓令式が優勢なケースもある。「書く」時と「打つ」時でも違いが出てくる可能性が高い。
|単語|割合|h
|「明石」|Aka%%%si%%% (23.3%) < Aka%%%shi%%% (75.4%)|
|「宇治」|U%%%zi%%% (17.5%) < U%%%ji%%% (81.1%)|
|「愛知」|Ai%%%ti%%% (10.8%) < Ai%%%chi%%% (88.0%)|
|「厚木」|A%%%tu%%%gi (37.6%) < A%%%tsu%%%gi (61.0%)|
|「岐阜」|Gi%%%hu%%% (15.6%) < Gi%%%fu%%% (83.1%)|
|「五所川原」|Go%%%syo%%%gawara (54.8%) > Go%%%sho%%%gawara (43.9%)|
|「御宿」|On%%%zyu%%%ku (7.3%) < On%%%ju%%%ku (52.1%)&br; ※ Onjyuku (39.3%):訓令式でもヘボン式でもない|
|「抹茶」|ma%%%ttya%%% (23.6%) < ma%%%ccha%%% (30.3%)&br; ※ matcha (32.4%):ヘボン式別表記&br; ※ maccya (12.1%):訓令式でもヘボン式でもない|
|「丹波」|Ta%%%n%%%ba (81.8%) > Ta%%%m%%%ba (16.7%)|
#endregion
***第五講目の内容
#region(漢字表の変遷)
''漢字表の変遷''
|BGCOLOR(#FFFFD2):当用漢字表|1946年|1850字|法令・公用文書・新聞・雑誌および一般社会で、使用する漢字の範囲を示したもの(制限する力が強い)|
|BGCOLOR(#FFFFD2):[[常用漢字表>https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/naikaku/kanji/joyokanjisakuin/index.html]]|1981年|1945字|「法令、公用文書、新聞、雑誌、放送など、一般の社会生活において、現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安を示すもの」|
コンピューター等の普及で書けないが読めるという字が増えたことを受けて常用漢字表は2010年に改定された。→2136字(追加196字、削除5字)
|>|2010年改定内容|h
|BGCOLOR(#FFFFD2):追加された字種|「誰」「頃」「岡」「埼」「鬱」「曖」「挨」など|
|BGCOLOR(#FFFFD2):追加された読み|「関(かかわる)」「私(わたし)」「粋(いき)」など|
|BGCOLOR(#FFFFD2):削除された字種|「勺」「匁」「錘」「銑」「脹」|
|>|現在の常用漢字表にも採用されていないもの|h
|BGCOLOR(#FFFFD2):表外漢字|「烏」「此」「伊」「只」「瓜」「萌」「頁」など|
|BGCOLOR(#FFFFD2):表外読み|「達(たち)」「宜(よろしく)」「想(おもう)」など|
こうした常用漢字表の影響により、「漢字・平仮名の混ぜ書き」や「代用字の使用」が行われている。
>''漢字・平仮名の混ぜ書き''
「蔓」:「まん延」
「逼」:「医療ひっ迫」
>''代用字''
希少(←稀少)※「稀」:まれ、薄い
抽選(←抽籤)※「籤」:くじ
技量(←技倆)※「倆」:うでまえ
#endregion
#region(漢字の読みの分類)
''漢字の読みの分類''
&color(Red){複数の漢字の読み=日本語社会の言語文化受容史の地層};
|>|BGCOLOR(#FFFFD2):訓読み|和語(日本固有語)を漢字に対応させた読み|
|>|BGCOLOR(#FFFFD2):音読み|中国・朝鮮半島から伝来し、日本語の音韻体系に定着した外来音|
|>|音読みの種類|h
|BGCOLOR(#FFFFD2):呉音|~奈良時代、仏教と共に中国南方音が朝鮮半島を経由して伝来|
|BGCOLOR(#FFFFD2):漢音|奈良時代~平安初期、長安地方の標準音が遣唐使などを通じて伝来|
|BGCOLOR(#FFFFD2):唐音|平安中期~江戸時代、中国中世音が主に禅僧などを通して伝来|
音読みの大半は漢音。呉音は仏教の伝来と共に入ってきた音なので、仏教関係の語に多い。
>''例''
「利%%%益%%%」:リ%%%エキ%%%【漢音】/ リ%%%ヤク%%%【呉音】
「%%%文%%%書」:%%%ブン%%%ショ【漢音】/ %%%モン%%%ジョ【呉音】
「変%%%化%%%」:ヘン%%%カ%%%【漢音】/ ヘン%%%ゲ%%%【呉音】
>''呉音と漢音の音声的対応関係''
|語|呉音 [m]|漢音 [b]|h
|「馬」|駿馬、馬頭|競馬、馬術|
|「武」|武者、建武|武士、武道|
|「文」|古文書、文科省|文書、文学|
|語|呉音 [n]|漢音 [ʥ] or [d]|h
|「日」|日本、日曜|元日、数日|
|「二」|二本、二月|二男、二郎|
|「内」|内閣、内紛|内裏、境内|
|「男」|美男、老若男女|男子、男女|
#endregion
#region(漢字の形)
''漢字の形''
→[[「常用漢字表の字体・字形に関する指針」[2016年 文化審議会国語分科会]>https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/pdf/jitai_jikei_shishin.pdf]]
-字種:同一の読み・意味で用いられる文字のグループ
-字体:文字の骨組みとしての概念的・抽象的な文字の形
-字形:個々の具体的な文字の形
字種・字体・字形は大から小への階層構造になっている。
>''練習問題の答え''
以下の(ア)~(ウ)のペアの「字種」「字体」「字形」について、「同じ」か「違う」のどちらが入るかを考えてみてください。
(ア) 「高」と「低」は… 字種は「違う」 字体は「違う」字形は「違う」
(イ) 「高」と「髙」は… 字種は「同じ」 字体は「違う」字形は「違う」
(ウ) 「高」と「'''高'''」は… 字種は「同じ」字体は「同じ」字形は「違う」
「高」「国」「崎」のように、「その時代、地域において規範とされる」字体の字を正字と言い、「髙」「國」「嵜」など、正字とは異なる字体を持つ字を異体字という。
何を「規範」とするかについてはいくつかの異なる立場がある。康熙字典体を規範と見る立場では、いわゆる旧字体のみが正字となる。
一方、その時代・地域において標準的に通用している字体(通用字体)を規範と見ることもでき(教科書の立場)、
その立場に立つと何を正字・異体字とするかは一定せず、時代や地域によって変わるということになる。
|字|近代日本|現代日本|現代中国本土|h
|「國」(旧字体)|正字|異体字|異体字|
|「国」(新字体・簡体字)|異体字|正字|正字|
|字|近代日本|現代日本|現代中国本土|h
|「龍」(旧字体)|正字|正字|異体字|
|「竜」(新字体)|異体字|正字|異体字|
|「龙」(簡体字)|異体字|異体字|正字|
漢字には字形や筆順をめぐる問題がある。&color(Red){特に学校教育における過剰な採点は問題視されている。};(政府も対応しているが、ローカルルールで残っているところも...)
→[[「漢字採点、厳しすぎませんか? バツばかり…登校嫌がる児童も」(中日新聞 2024年4月22日)>https://www.chunichi.co.jp/article/888004]] (参考までに)
平成26年度の「国語に関する世論調査」で取り上げられている差は手書き文化に親しんでいる世代かコンピューターの表示に親しんでいる世代かの違いであろう。
→[[平成26年度「国語に関する世論調査」>https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/kokugo_yoronchosa/pdf/h26_chosa_kekka.pdf]] 9-10頁
>[[「常用漢字表の字体・字形に関する指針」(2016年 文化審議会国語分科会)>https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/pdf/jitai_jikei_shishin.pdf]]
漢字は,日本語を用いて生活する人々が円滑に情報を伝達し合う上で不可欠なものとして共有されてきた。しかし,「国語に関する世論調査」の結果から,具体的な漢字について,適切だと考える字形が人によって違っている場合があること,また,手書き文字の字形と印刷文字の字形それぞれの表し方の間にある習慣の違いが理解されにくくなっていること等が明らかとなった。このようなことが更に進行すれば,漢字の使用が文字によるコミュニケーションに負の影響を及ぼすことにもなりかねない。また,入学試験や採用試験,各種の検定試験等における採点等に影響するおそれもある。こうした問題は,日本語で漢字を用いる全ての人々に関係するものである。[p.14]
手書き文字の字形と印刷文字の字形の違いは字体の違いとして捉えられるものではなく,どちらかだけが正しい又は誤りとすべきではない。また,とめ,はね,はらい等の細かな差異についても,字体の違いに及ぶものでなければ,漢字の正誤を左右するようなものとして問題視する必要はない。[p.211]
>筆順指導に関する指針
-[[「筆順指導の手びき」(文部省 1958年)>https://a4lg.com/downloads/library/a4lg-%E7%AD%86%E9%A0%86%E6%8C%87%E5%B0%8E%E3%81%AE%E6%89%8B%E3%81%B3%E3%81%8D.ja.html]]
ここに取りあげなかった筆順についても、これを誤りとするものでもなく、また否定しようとするものでもない [p.7]
-[[「小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 国語編」>https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387017_002.pdf]]
筆順とは、文字を書き進める際の合理的な順序が習慣化したもののことである。
学校教育で指導する筆順は、『上から下へ』、『左から右へ』、『横から縦へ』といった原則として一般に通用している常識的なものである[p.55]
#endregion
***第六講目の内容
#region(仮名遣い)
''仮名遣い''
>''[[1986年 内閣告示>https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/naikaku/gendaikana/index.html]]「現代仮名遣い」''
「前書き」
-1. この仮名遣いは,語を%%%現代語の音韻に従つて書き表すことを原則とし%%%,一方,%%%表記の慣習を尊重して,一定の特例を設ける%%%ものである。
-2. この仮名遣いは,法令,公用文書,新聞,雑誌,放送など,一般の社会生活において,現代の国語を書き表すための%%%仮名遣いのよりどころ%%%を示すものである。
-3. この仮名遣いは,%%%科学,技術,芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない%%%。
「現代語の音韻に従って書き表す」とされているが、慣習に拠るところも大きく、音韻の実態を必ずしも反映していないことに注意。
長音や歴史的仮名遣いを踏襲している部分は音韻との対応が特に見えにくい。
>''[[1973年 内閣告示>https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/naikaku/okurikana/index.html]]「送り仮名の付け方」''
-通則1の本則:活用のある語は,活用語尾を送る。
|語|語幹|活用|h
|「早(はや)い」|はや|かろ/かっ・く/い/い/けれ|
|「怒(おこ)る」|おこ|ら/り/る/る/れ/れ|
|「起(お)きる」|お|き/き/きる/きる/きれ/きろ|
--◆通則1の例外=できるだけ送り仮名部分を揃える
---◆◆例外1:語幹が「し」で終わる形容詞は,「し」から送る。
|語|語幹|活用|h
|「悲(かな)しい」|かなし|かろ/かっ・く/い/い/けれ|
「通則1の本則」に従うならば「悲い」となるはず。「楽しい」「嬉しい」「悔しい」などの他の語と送り仮名部分を揃える方を優先。
---◆◆例外2:活用語尾の前に「か」「やか」「らか」を含む形容動詞は,その音節から送る
-通則2の本則=できるだけ漢字部分の読みを揃える:活用語尾以外の部分に他の語を含む語は,含まれている語の送り仮名の付け方によって送る。
|語|語幹|活用|h
|「起(お)こる」|おこ|ら/り/る/る/れ/れ|
「通則1の本則」に従うならば「起る」となるはず。「通則1の本則」に従う「起きる」があり、「起」の読みを「お」に揃える方を優先。
「通則」は示されているが、その「通則」間の関係が込み入っており、また慣習による「許容」「例外」も多い。
基本は「通則1」にしたがう。ただし、「通則1の例外」「通則2」に該当する語の場合はその限りではない。
>''[[1991年 内閣告示>https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/naikaku/gairai/index.html]]「外来語の表記」''
「前書き」
-1. この『外来語の表記』は,法令,公用文書,新聞,雑誌,放送など,一般の社会生活において,%%%現代の国語を書き表すための「外来語の表記」のよりどころ%%%を示すものである。
-2. この『外来語の表記』は,%%%科学,技術,芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない%%%。
|>|>|表記の揺れ|h
|語|表記|備考|h
|team|チーム|英語ではteaは両方とも同じ発音だが、チームはティームにならない。|
|tea|ティー|~|
|game|ゲーム|英語の発音は同じだが、ゲイムやネールは少ない。|
|nail|ネイル|~|
|classmate|クラスメイト/クラスメート|表記に揺れ|
|violin|バイオリン/ヴァイオリン|~|
|whisky|ウイスキー/ウィスキー|~|
外来語の片仮名表記と原語の発音の関係は一定しておらず、それぞれの語ごとに個別に慣習化している部分が大きい。
規則性が見出しにくく、ゆれが大きい。非母語話者にとっては学習が特に難しい部分の一つ。
#endregion
#region(日本語の表記選択)
''日本語の表記選択''
書き手の表記行動という側面に着目すると、正書法が比較的確立している他言語に比べて日本語は主体的な選択の余地が大きい。多様な表記のあり様を許容する。
>''漢字の性質と表語性''
-%%%平仮名で書くのが一般的な和語の機能語を漢字で書く。%%%
例文「&color(Red){余りに};仕事が多くて&color(Red){殆ど};寝られず、昨日も夜中の4時&color(Red){迄};仕事をして&color(Red){居り};ました。」
-%%%片仮名で書くのが一般的な外来語を漢字で書く。%%%
[[喫茶店『CLOVER』の宣伝文句>http://clover2004.com/coffee/]]「クローバーの&color(Red){珈琲};は、サイフォン式で抽出して薫り高い独自の味わいを出していくなど、挽き方からこだわってお出ししております。一杯の&color(Red){珈琲};でも妥協することなく、一からお挽きしております。」
-%%%片仮名で書くのが一般的な外来語を平仮名で書く。%%%
[[Youtubeの動画の題名>https://www.youtube.com/watch?v=jHT70FSRBeA]]「うさぎのちはや・すぷーんでじょうずにうまうまするの☆」
>''カタカナ表記の選択''
-%%%◉動機1:本来の意味とは異なる派生的意味を表す。%%%
---ツボ(壺)にはまる
---コツ(骨)をつかむ
---クビ(首)にする
---チラシ(散らし)を配る
---話にオチ(落ち)がない
---ボケ(呆け)とツッコミ(突っ込み)
-%%%◉動機2:語の位相を表す。[教科書 p.49]%%%
--ゴシップな感じを出す。
---芸能界に関するウワサがたくさん載った記事を読んだ。
--隠語・俗語
---サツには黙ってろ。
---マジでヤバい。
--学術用語
---サクラは、バラ科サクラ亜科サクラ属の落葉紅葉樹である。
---『ヒトはどのようにしてつくられたか』(山極寿一著、2007年、岩波書店)
--外行語(:非日本語圏で通用するようになった日本語)としての使用
---「キモノ」「オリガミ」「ヒロシマ」「テリヤキ」「カラアゲ」「イセカイ」
-%%%◉動機3:具体的な超分節音的特徴を想起させる。%%%
---「チョー嬉しいヨ!」/「超嬉しいよ!」
---「ワレワレハ宇宙人ダ。」/「我々は宇宙人だ。」
片仮名表記の方がよりvividに読まれやすい。
また、文字にしたときにこぼれ落ちる韻律情報を補うために片仮名が利用されている。
#endregion
余談だが、檜と桧は字体が異なるだけで字種は同じであるものの、二十代は檜を、五十代は桧を好んで使う傾向がある。
これは五十代の人が二十代よりも手書きに親しんでいたからであろう。(桧の方が書きやすかったから。)
これは五十代の人が二十代よりも手書きに親しんでいたからであろう。(桧の方が書きやすかったからか。)
***第七講目の内容
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