<a href="https://nichidaibunrigojokai.swiki.jp/index.php?cmd=related&page=%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E%E5%AD%A6%E5%85%A5%E9%96%80%EF%BC%91%28%E4%BA%95%E4%B8%8A%E5%84%AA%29">日本語学入門1(井上優)</a> の編集
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> 日本語学入門1(井上優)
日本語学入門1(井上優)
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***第八講目の内容 [#k2054589] オンデマンド #hr #region(語構成,意味の派生,意味の合成) ''語構成,意味の派生,意味の合成'' >''「語の意味」について考えるとは'' ① どこまでが「一つの語」か。 ②「用法」をどのように分類するか。 ③それぞれの用法はどのような関係にあるか。 ④ 何がその語の「基本義」か。 |~形態論(morphology)|語の構造に関する研究| |~形態素(morpheme)|意味・機能を担う最小単位| |~語基 base|一定の独立性を有しつつ、複合語や派生語の構成要素となる形態素| |~接辞 affix|語基に付加される独立性の低い形態素(接頭辞 prefix、接尾辞 suffix)| |~語幹 stem|語の形態変化において変化しない部分| |~語尾 ending|語の形態変化において変化する部分| #br 構成的な意味:派生語・複合語の意味 = 構成要素の意味の総和 一体的な意味:派生語・複合語の意味 #構成要素の意味の総和 ||字義通りの意味&br;(構成的な意味)|慣用的意味&br;(一体的な意味)|h |~足を洗う|足を洗浄する|悪いことをやめる| |~実を結ぶ|植物が実をつける|努力の結果が出る| |~骨が折れる|骨折する|苦労する| |~頭を抱える|頭を手で抱える|うまくいかず悩む| |~目をつぶる|目を閉じる|見ないことにする| |~飯を食う|食事する|生活する| 意味の派生:多義語における基本的意味(基本義) からの意味の拡張 #endregion
''■[[日本語学入門>日本文学・語学入門 一覧]]'' ''日本語学入門1''|日本語学入門1(井上優)|[[日本語学入門1(大江元貴)]] ''日本語学入門2''|[[日本語学入門2(井上優)]]|[[日本語学入門2(大江元貴)]] #contents |BGCOLOR(#555):COLOR(White):200|520|c |BGCOLOR(#fc2):COLOR(Black):''分類''|''国文学科必修/国語科教員必修&br;日本語教育選択''| |区分|[[国文学科]]科目| |履修形態|一般(人数過多の場合は抽選)| |履修条件|第2回授業までに、Canvas LMSへ自己登録し、且つ1回は出席すること| |単位数|2| |講師|[[井上優]]| |学位等|学士(文学)| //*はじめに [#pca64d7c] //&color(Blue){''[[国文学科]]新入生の皆さん、ご入学おめでとう御座います。''}; //#br //これがおそらく初めて受ける授業になると思います。 //流されるがままに履修登録させられ、不安な人もいるでしょう。 //この授業はチュートリアルであり、朝に開講されるのを除けば、簡単な部類です。 //あまり気を負い過ぎないでください。 //皆さんのキャンパスライフを応援しています。 *概要 [#Gaiyou] 日本語学(日本語言語学)の諸領域を概観する。 #br [[国文学科]]の学生が初めて受ける授業。 難易度は低く、出席と提出さえすれば簡単に単位が取れる。 落第する筈のない授業であり、二年生以降に取る羽目になった人は焦った方が良い。 #br 教科書は荻野綱男の『現代日本語学入門 改訂版』(明治書院 2018年 第1版) 必ず改訂版を購入すること。 なくてもなんとかなる。 |>|成績割合|h |レポート(授業の内容について要約する期末レポートを課す。)|40%| |授業参画度(リアクションペーパーの提出状況と内容で評価する。)|60%| この科目は文理学部(学士(文学))のディプロマポリシーDP1,2,3,8及びカリキュラムポリシーCP1,2,3,8に対応している。 *講師の印象 [#Inshou] //(ズボラな学生以外を)落単させない先生。 優しい *令和六年度(2024年度) [#h81d5434] #style(class=submenuheader){{ **前期 }} #style(class=submenu){{ |BGCOLOR(#555):COLOR(White):200|520|c |BGCOLOR(#fc2):COLOR(Black):授業形態|対面授業| |日程/教室|火曜日 一限目/3407教室(三号館四階七番教室)| >''期末レポート課題'' 第1回~第14回の授業で学んだことを、 「1.音声と音韻」「2.語彙と意味」「3.文法、文章と文体」 の3つの節に分けて、自分のことばで文章にまとめなさい。 #br 各節でどの回の内容をとりあげるかは自由だが、テキストや講義資料の内容を写すだけのまとめは不可。 文章の形でまとめること。箇条書きは不可。 引用箇所を明記したうえでの引用は可だが、引用ばかりにならないようにすること。 |~提出期間|7月24日(水)0:00 ~ 8月2日(金)23:59(提出期間以外の提出は不可)| |~分量|A4判横書き。3つの節で合計3ページ以上4ページ以内。&br;書式は見やすければ自由。ただし、1ページの字数が極端に少ないのは不可。| |~提出方法|pdfファイルで提出。3回まで提出可。| >> ''注意事項'' ・冒頭に学生番号と氏名を記入すること。 ・講義資料を含め、他から引用する場合は必ず引用元を明記すること。コピペは不可。 ・生成AIは使わないこと。 期末レポート課題は提出期間以外の提出が不可とされているが、第二次受付期間がこっそり用意されている。 &color(Silver){これほどの厚遇がありながら、落第するなど決して許されない。}; ***第一講目の内容 [#gaa71cc1] #region(日本語学とは) ''日本語学とは'' 日本語学は言語学の一分野である。 日本語学(国語学)=日本語言語学(Japanese linguitics) >''「日本語」と「国語」の違い'' -学校教育や国の機関では「国語」。 -学術研究では「国語」から「日本語」に移行。(「国語」を使う人もいる。) 国語学会→日本語学会 言語学(linguistics)は「言語」を対象とした学問 >''言語学の研究分野'' -「言語の諸側面」について研究する分野 --音声学 phonetics --音韻論 pbonology --形態論 morphology --統語論(構文論) syntax --意味論 semantics --語用論(運用論) pragmatics --文章論,談話論 discourse studies --文体論 stylistics --語彙論 lexicology --文字論 grammatology -「言語の多様性」「言語の変化」について研究する分野 --方言学 dialectology --言語地理学 geolinguistics、linguistic geography --対照言語学 contrastive linguistics --言語類型論 Linguistic typology --歷史言語学 historical linguistics --比較言語学 comparative linguistics --社会言語学 sociolinguistics (言語社会学 linguistic sociology) -「人間の諸側面」と「言語」との関係について研究する分野 --心理言語学 psycholinguistics (言語心理学 linguistic psychology) --神経言語学 neurolinguistics --認知言語学 cognitive linguistics --人類言語学 anthropological linguistics (言語人類学 linguistic anthropology) --言語哲学 Linguistic philosophy --言語習得研究(母語(第一言語)の習得、第二言語の習得) --言語教育学 pedagogical linguistics --法言語学 forensic linguistics --経済言語学 econlinguistics (言語経済学 liguistic economy) --生態言語学 ecolinguists (言語生態学 language ecology / linguistic ecology) -「研究方法」にもとづく研究分野 --計量言語学 quantitative linguistics --コンピュータ言語学 computational linguistics --コーパス言語学 corpus linguistics --数理言語学 mathematical linguistics --実験言語学 experimental linguistics |>|「言語(ことば)」の2つの意味&br;(フェルディナン・ド・ソシュール Ferdinand de Saussure、1857-1913)|h |~ラング(Langue)|ある言語の話者が集団として共有している「ことばのしくみ」。| |~パロール(parole)|ある言語の話者が生み出す具体的なことばそのもの。| 言語の研究とは、直接観察できる「パロール=発されたことば」の分析を通じて、 直接観察できない「ラング=ことばのしくみ」について考えること。 >''言語学・日本語学を学ぶことの意義'' 言語(ことば)は人間にとって最も身近かつ重要な存在の一つ。 身近で重要なもののしくみを理解することは、人が生きていく上で重要。 (体のしくみや自然のしくみを理解することが重要なのと同じ。) #br 私たちは言語を用いて日常生活を送っているが、日常生活において言語について考えることはない。 言語に関しては多くの人が「ボーっと生きている」状態。 #br そのため、言語について何か考える必要が生じても、何をどう考えればよいかわからない。 何かそれらしいことを言われると、簡単に「言われてみればそうだ」となってしまう。 (少し考えれば「誤り」「言いすぎ」とわかるのに、それに気がつかない。) 言語について知ることは、言語と適切に向き合うために必要なこと。 >''世界の言語と日本語と日本語特殊論'' 米国の国務省の[[ウェブサイト>https://www.state.gov/foreign-language-training/]]で日本語は最も難しい部類に分けられた。 しかし、日本語は特に%%%特殊%%%でも%%%難しく%%%もない。(SOV語順も珍しくない。) #br 言語距離(linguistic distance):様々な特徴から見た言語間の類似度 →「言語距離が大きい言語ほど習得が困難」と言われることが多い。 #br 日本語の音韻体系はシンプル。文法の基本的な部分もシンプル。但し次の3点は多少複雑。 ①表記 (ひらがな・カタカナ・漢字、漢字の音読み・訓読み) ②語彙(和語・漢語・外来語) (→韓国語・ベトナム語も同様) ③敬語(→韓国語も複雑。また、丁寧さに関わることはどの言語でも難しい。) >''比較言語学(comparative linguistics)'' 親族関係にあると考えられる言語を比較して歴史的な系統関係や共通の祖語について考える学問。 主に身体名称、親族名称、数詞のような基礎語彙の共通度 (形式の対応の規則性)に基づき、言語の系統関係について考える。 -語彙の共通度 語彙が似ている理由には「偶然」「借用」「同系統」の3つがありうる。 「2つの言語が同じ系統である(親族関係にある)」と言うためには、 「偶然」「借用」という可能性を排除しなければならず、極めて慎重な検討が必要。 日本語の系統に関する研究は多いが、諸説あって定説がない。 「日本語は系統不明」というのもそのような意味(「謎の言語」というわけではない)。 日本語に限らず系統不明な言語は多い。 #br 国民とその言語は必ずしも一致しない。 (例:フランス国民はフランス語話者が85%だけ) #endregion ***第二講目の内容 [#a3a16fe7] #region(音声学) ''音声学'' 音声学:人間が発する言語音に関する研究。 |~調音音声学|人間はどのように言語音を発するか| |~音響音声学|言語音はどのような物理的特性を持っているか| |~聴覚音声学|人間は言語音をどのように処理するか| 音声器官(調音器官)は、言語音の生成だけでなく、 「呼吸する」「食べ物をかむ」「のみ込む」といった生命維持のための動作にも関係する。 「言語聴覚士」は嚥下障害への支援も担う。 >''言語音の生成'' +肺からの息で声帯が振動し、原音が作られる。 +原音が息の通り道である声道(喉頭・咽頭・口腔・鼻腔)を通る過程でさまざまな調整を受け、音声として外に出る。 →人間は多様な音声を発することができる。 |>|CENTER:単音|h |母音|子音|h |声道で息の流れが阻害されることなく、舌と上顎(と唇)とでできる空間の形により調整される音。&br;(i)%%%舌のどの位置(前-後)がどの程度上顎に近づくか(狭-広)%%%、&br;(ii)%%%唇を丸めるか丸めないか(円唇-非円唇)%%%により整理。|声道のどこかで息の流れが阻害されることにより発される雑音。&br;主に、(i)%%%どこで(調音点)どのようにして(調音方法)音を出すか%%%、&br;(ii)%%%発音の際に声帯の振動をともなうか(有声音)ともなわないか(無声音)%%%で整理される。| 母音は円唇・非円唇に分けられ、そこから更に狭・半狭・半広・広に分けられる。 |※簡略表|>|>|非円唇|>|>|円唇|h |~|~前舌|~中舌|~後舌|~前舌|~中舌|~後舌| |~狭|i|ɨ|ɯ|y|ʉ|u| |~半狭|e||ɤ|ø||o| |~半狭-半広||ɘ||||| |~半広|ɛ||ʌ|œ||ɔ| |~半広-広|æ|||||| |~広|a||ɑ|ɶ||ɒ| -[[国際音声字母(International Phonetic Alphabet:IPA)>https://web.uvic.ca/ling/resources/ipa/charts/IPAlab/IPAlab.htm]]の子音表を改めたもの 赤字が日本語で用いられている音 &uploader(ee99d376d450ae0896f61e018c8fe6930b69f8bd_nichidaibunrigojokai_7,nolink); #br #br 音を表す方法の一つにローマ字表記がある。但し、ローマ字≠音声記号 音声表記([]で囲む)や音素表記(/ / で囲む)もある。 >''五十音図'' いろは四七字を縦五段、横一○行のわくの中に、 音韻上の性質から、子音を同じくするものを同行に、母音を同じくするものを同段に配置したもの。 清音の直音音節を整理配列した、音節表と見ることができる。 また、現代では、濁音、半濁音、拗音の表記を同様の行、段に配列して添えたものをもいう。 (日本国語大辞典第2版) -潜在的には、日本語ではもっと多くの音が用いられてもおかしくない。 「ゔぁ」や「うぃ」など。日本語の「ん」の発音は複数ある。 -五十音図は「和語・漢語の音の体系」に基づいて作られている。 -「あいうえお」を「ア行」とまとめるのは、「日本語の母音は5つ」と考えるから。 -それにともない、「イ段音」「ウ段音」は「い・う」の下に「直音」として配置。 -「は(清音)-ば(濁音)-ぱ(半濁音)」とまとめるのは、「連濁」(複合語における濁音化)の現象では「は-ば-ぱ」がグループをなすから。 #endregion ***第三講目の内容 [#w1b31b82] #region(音韻論、韻律) ''音韻論、韻律'' >''音声学(phonetics):「音声そのものの性質」を分析する。'' 普遍的なもので、世界中の言語に通じる一つの音声学がある。 体のどの部分をどのように使って、どのような音が作り出されるのかを物理的、現実的な事実として捉える。 一つの言語のみならず、あらゆる言語を対象とすることができる。 音声学的に捉えた音の&color(Red){最小単位を「単音」};と言う。 >''音韻論(phonology):それぞれの言語の「音の体系」を考える。'' 言語固有のもので、それぞれの言語ごとの音韻論がある [その中でも諸説あり]。 ある言語で、音声学的に捉えられた音の異なりを、「意味の区別に役立つか否か」という観点から捉える。 [音の異なりがどのような価値を持つかは言語によって異なるので] この観点は個別の言語のみに有効であり、この点が音声学とは異なる。 音韻論的に捉えた音の&color(Red){最小単位を「音素」};という。 |~音声記号|発音そのものを表す。発音が違えば記号も異なる。&br;記号の使い方は(基本的に)世界共通。[] で囲む。| |~音素記号|その言語の音の体系を書くための記号。&br;その言語の枠内で記号を最大限に合理的に使って、その言語の音の骨格を書く。// で囲む。| 音韻論のエッセンス: 音の違いに対して異なる記号をあてる必要がない場合は、一つの記号にまとめる。 -指針1 意味の区別に関係ない些細な違いは無視する。(参考:漢字の筆順) -指針2 「表面的には別のものだが、実は同一のものが一定の規則のもとで姿を変えているだけ」という可能性を追求する (相補分布)。 (参考:ある曲を演奏するのに最低限必要な奏者の数) 一見難しそうだが、実は身近な考え方。 #br |標準日本語|ローマ字|音素記号|音声記号|備考|h |か(蚊)|ka|/ka/|[ka]|~[k] [ɡ] [a] [e]の違いは意味の区別に関係するので、それぞれ別の記号をあてる必要がある。| |が(蛾)|ga|/ɡa/|[ɡa]|~| |け(毛)|ke|/ke/|[ke]|~| |かがみ(鏡)|kagami|/kaɡami/|[kaɡami]|~語中のが行音の発音は [ɡ] [ŋ] [ɣ] の3種類がありうるが、&br;意味の区別に関係しないので、「が」「g」「/ɡ/」だけでよい。| |~|~|~|[kaŋami]|~| |~|~|~|[kaɣami]|~| [[日本語]]には母音音素が5つ (aiueo)、半母音音素が2つ (jw)、子音音素が12 (k,g,s,z,t,d,n,h,p,b,m,r)ある。 実際に使用される「音声」の種類はこれより多い。 日本語では、長音/ʀ/、促音/ꞯ/、撥音/ɴ/ も音素とする必要あり (→特殊音素)。 #br 指針1と指針2に基づく分析により、「和語・漢語の音の体系」を導き出したもの、 「ウィ」「フォ」「チェ」「ティ」などの外来語音は含まれていない。 #br 五十音図における「直音(半母音なし:かな1文字)」、「拗音(半母音あり:かな+小かな)」 という整理のしかたも音韻論的な観点による。(音声学的には子音の違い。) 仮名表記、ローマ字表記(特に訓令式ローマ字)には、音韻論的な考え方が反映されている。 > ''現代日本語 (標準語)のアクセント規則'' 下がり目の位置が決まれば、次の2つの規則により自動的に高低が決まる。 (語に固有の性質 + 一般的なアクセント規則 = 実際のアクセント) -規則1 第1モーラと第2モーラの高さは異なる。 -規則2 一度下がったら単語内部で再び上がることはない。 >> 日本語(標準語)では下がり目 (アクセント核)のみが重要と言える。 ・理由1 下がり目が指定されれば、あとは2つの規則で語の中の拍の高低が決まる。 ・理由2 フレーズの中で発音された場合、上がり目は消えることもあるが、下がり目は必ず現れる。 #br 要するに、標準語では「上がり目」は「低く始まったら次は自動的に高くなる」というだけであり、 それ以上の意味はない、ということ。 規則1と規則2に |アクセントの機能|例|h |弁別機能(語の区別に関わる機能)|あめ→飴/雨| |境界表示機能(語の境界を示す機能)|もうかった→儲かった/もう買った| 弁別機能と境界表示機能のうち、より重要なのは後者。 →仮にすべての語が「平板型」(下がり目なし)に変化した場合、 アクセントで語を区別することはできなくなるが、語の境界はわかる。 #br 平板化は一種の「省エネ」。「省エネ+新しさ」ゆえに広まっており、 将来はすべての語が平板型(下がり目なし)に変化する可能性はある。 人間は常にどこかで目新しさを追求するので、そうなった後どうなるかが興味深い。 #endregion ***第四講目の内容 [#ge2e24cf] #region(語と語彙,語形) ''語と語彙,語形'' 「語」とは、次の2つの側面を持った「言語の最も基本的な単位」である。 +“世界の部分”を一般的に表すという働き(語彙的な側面) +文を組み立てる材料 (主語や目的語など)になるという働き (文法的な側面) #br 学校文法における「語」=文節の構成要素「文節=自立語+付属語」 語→文節→文 「語彙的な側面」と「文法的な側面」の両方をもつものを「語」と見た場合 語→文 |~膠着語|[[日本語]]| |~屈折語|[[英語]]| |~孤立語|[[中国語]]| >''開かれた体系/閉ざされた体系'' 要素が少ない音韻 (音素‘phonemes')の場合は、1個の要素の増減も、 ただちに体系の破壊・変更につながるので、容易には行われないが、 語彙の場合は、要素が無数に存在するようなもので、基本的でない特殊な単語の増減はまったく自由であって、 現実にも間断なくそれが行われていると見られるのである。 音韻のような固い体系を、〈閉じた体系〉とか〈閉ざされた体系〉とか呼ぶのに対して、 語彙の一般に見られるゆるい体系を、〈開いた体系〉とか〈開かれた体系〉とか呼ぶ。 言語学における「○○素」=構成要素となる最小単位 |~音素|それぞれの言語の音の体系を構成する最小単位| |~形態素|意味を担う最小単位| |~語彙素|語彙の体系の最小単位| 語が集まって構成するまとまりを語彙という。 >''語形'' 言語とは、社会の構成員が互いに協力するための手段となる、音声による恣意的な記号の体系である。 //恣意的:表現形式と意味内容との間に必然的な関係がない。 表現形式と意味内容との間には必然的な関係がなく (言語記号の「恣意性」)、 両者の関係は1つの言語社会内の約束事にすぎない(言語の「社会性」)。 (どのような意味内容にどのような音声表現を結びつけるかは自由。) >''オノマトペにおける「恣意性」と「有縁性」'' 例えば、[[英語]]でオンドリはcock-a-doodle-doo と鳴く。英語の犬はbow-wowである。 [[中国語]]ではオンドリは“喔喔喔喔” wõwõwõwo であり、犬は“汪汪” wāngwāng である。 英語の牛は moo、[[日本語]]では「モー」、中国語では“哞”mõuだ。 言語は「音声を組み合わせて語をつくる」、「語を組み合わせて文をつくる」という二段構えで出来ている(言語の「二重分節性」)。 限られた数の音を多様に組み合わせることにより、多様な語をつくることができ、それぞれに意味内容を対応させることができる。 #endregion ***第五講目の内容 [#h058ff25] #region(語種,語構成) ''語種,語構成'' >''「語彙の拡大」の方法'' -新しい語をつくる。(造語・語形成) -他の言語から語を借りる。(借用) >''語種'' 出自による語の違い。 [[日本語]]の語彙は、大きく、本来語の和語に、まずは[[中国語]]からの借用語である漢語、 次いで、やはり借用語である外来語を加えるという順序で拡大してきた。 この語彙拡大の過程は、和語が最も基幹的な位置にあり、それに次ぐ位置に漢語があって、 外来語は最も周辺的な位置にあるという、現在の日本語語彙におけるそれぞれの位置づけに反映している。 使用頻度や意味分野の面で、本来語である和語は、日常生活でよく用いられる基本的・一般的な意味を表す語に多く、 また、漢語(字音語)は、人間活動や抽象的関係などの抽象語を中心に、 和語が及ばない意味分野の語を充実させているのに対し、 外来語は、和語・漢語に比べれば歴史が浅いため、その意味分野はまだモノの領域に限られる傾向が強く、 語彙の周辺的な存在であることが窺われる。 ただし、語彙の拡大が、すでに安定・固定化した語彙の基幹部よりも、不安定で流動的な周辺部で盛んに行われるのだとすれば、 新たな語の増加は、和語や漢語よりも外来語において活発である可能性がある。 #br 日本語において「借用」が持つ意味合いを考えるには、「語の使い分け (意味範囲)と語種の関係」について詳しく観察する必要がある。 |和語|漢語|外来語|h |宿屋|旅館|ホテル| |回り道|迂回路|バイパス| |取り消し|解約|キャンセル| |思いつき|着想|アイディア| 印象や意味や用法が異なる。 #br |感覚的・個人的|論理的・集団的|h |&ruby(あしあと){足跡}(具体的)|&ruby(ソクセキ){足跡}(抽象的)| |&ruby(ひやざけ){冷酒}(状況依存的・一時的)|&ruby(レイシュ){冷酒}(分類的・客観的)| |&ruby(バチ){罰}(私的・現象的)|&ruby(バツ){罰}(公的・人為的)| |先祖(個人的・近)|祖先(集団的・遠)| 現代日本語は和語や漢語の「造語力」が落ちているので、外来語を取り入れて語彙を豊富にするしかない。 (外国のものが好きだから外来語が多いのではない。) →中国語は漢字の造語力が強い。漢字を組み合わせて新しい漢字語を作る。 ※中国語にも外国語をそのまま借用した音訳語は多い。(発音は中国語風) >''中国語の造語力が高い(日本語の造語力が低い)理由'' + 「独立の概念を表す語と意識されれば字の意味は意識されない」という原理が 中国語では広く名詞一般にあてはまる。 日本語では固有名詞や一部の名詞のみ(「葉書」など) + --日本語 漢語は一般的な事物 (漢字の意味を反映)。 特殊な事物は外来語またはカタカナ語。(漢字の意味を意識しなくてよい。) --中国語 一般的な事物も特殊な事物も漢語。(既存の語に新しい意味を加えられる。) >''造語(語形成)'' +既存の材料を使わずにまったく新しい語を作る。(語根創造) +既存の材料を使う。 --合成 ---派生:語基と接辞(接頭辞・接尾辞) の組み合わせ 「高-さ」「高-み」「おもしろ-がる」「真っ-白」 ---複合:語基と語基の組み合わせ 「山-道」「走り-出す」「細-長い」「丸-顔」 --縮約 「スマートフォン→スマホ」「コンビニエンスストア→コンビニ」 --転成 「走り」(動詞「走る」の連用形「走り」を名詞に転用) #endregion ***第六講目の内容 [#l4ffad25] #region(位相,語彙の体系,語彙の計量) ''位相,語彙の体系,語彙の計量'' >''位相'' 語彙の中に、同じ意味内容を表す語が複数存在して、それらが様々な言語外的な条件によって使い分けられる状況である。 こうした語の使い分けにかかわる言語外的な条件を位相といい、位相によって使い分けられる語を位相語という。 #br -田中(1999)の説明 社会的な集団や階層、あるいは、表現上の様式や場面それぞれにみられる、言語の特有な様式を「位相」と言い、 それに基づく、言語上の差異を「位相差」と呼ぶ。 位相には、大きく、表現主体によるものと表現様式によるものがある。 |~社会的位相|性別、世代、身分・階層、職業・専門分野、社会集団によるもの| |~様式的位相|書きことば・話しことばの差異、文章のジャンル・文体の差異、場面・相手の差異、伝達様式の差異によるもの| |~心理的位相|忌避の心理、美化の心理、仲間意識、戦場心理、対人意識、待遇意識、売手・買手の心理によるもの| 語種(和語・漢語・外来語)の使い分けは、意味範囲だけでなく、表現様式による位相(スタイル差、文体差)とも関係する。 > ''語彙調査'' 実際の文章や談話を資料として、どのような語がどれほど使われているかを明らかにする。 >> 語彙調査のために必要なこと +サンプリング(バランスよくサンプルをとる) +単位切り(調査目的に合った長さの単位) --例 |長単位|短単位|h ||日本大学|||日本|大学|| +同語異語判別(活用形・異表記形・連濁などを考慮) --例 桜/さくら/サクラ 会う/あう/会っ/あい/会え よい/いい +情報付与 #endregion ***第七講目の内容 [#e25f5bc8] #region(語の意味、意味関係、意味分野,シソーラス) ''語の意味、意味関係、意味分野,シソーラス'' 「意味」には2つの側面がある。意味論と語用論がそれぞれ扱う。 |~「意味論 semantics」|コンテクスト (context、文脈)から切り離して考えることができる部分。| |~「語用論 pragmatics」|コンテクストから切り離して考えることができない部分。| |~意味論の問題の例|「ほす(干す)」と「かわかす(乾かす)」の使い分け| |~語用論の問題の例|「いいです」の解釈| >''『大辞林』(三省堂)の「とる」の大区分'' +手に持つ。「ペンをとる」 〈把握> +それまであった所から自分の側に移す。「貝をとる」 <獲得> +それまであった場所から別のところに移す。「しみをとる」 <離脱> +身に負う。引き受ける。受け止める。「責任をとる」 <受入> +選び出す。選んで決める。 「新卒をとる」 <選択> +作り出す。ある形にしてとどめる。「大豆から油をとる」 <生産> +数量や物事を知る。おしはかる。「寸法をとる」 <情報獲得> +場所や時間を占める。「席をとる」 <占有> +手・足・体などを動かす。ある動作をする。「拍子をとる」 <動作> + ①(古義・省略) ② たとえる、なぞらえる。「例にとる」 <例示> >''語の意味について考える観点'' +「同じ語」か「同音異義語」か +語の意味の内部構造 (基本義と各用法の関係) +どのようなレベルの意味か --語彙的意味/文法的意味 --一般的意味/文脈的意味 --中心的意味周辺的意味 --対象的意味(概念的意味)/感情的意味/文体的意味 --明示的意味/暗示的意味 --百科事典的意味 +他の語との間の意味関係(語彙の体系) #endregion ***第八講目の内容 [#k2054589] オンデマンド #hr #region(語構成,意味の派生,意味の合成) ''語構成,意味の派生,意味の合成'' >''「語の意味」について考えるとは'' ① どこまでが「一つの語」か。 ②「用法」をどのように分類するか。 ③それぞれの用法はどのような関係にあるか。 ④ 何がその語の「基本義」か。 |~形態論(morphology)|語の構造に関する研究| |~形態素(morpheme)|意味・機能を担う最小単位| |~語基 base|一定の独立性を有しつつ、複合語や派生語の構成要素となる形態素| |~接辞 affix|語基に付加される独立性の低い形態素(接頭辞 prefix、接尾辞 suffix)| |~語幹 stem|語の形態変化において変化しない部分| |~語尾 ending|語の形態変化において変化する部分| #br 構成的な意味:派生語・複合語の意味 = 構成要素の意味の総和 一体的な意味:派生語・複合語の意味 #構成要素の意味の総和 ||字義通りの意味&br;(構成的な意味)|慣用的意味&br;(一体的な意味)|h |~足を洗う|足を洗浄する|悪いことをやめる| |~実を結ぶ|植物が実をつける|努力の結果が出る| |~骨が折れる|骨折する|苦労する| |~頭を抱える|頭を手で抱える|うまくいかず悩む| |~目をつぶる|目を閉じる|見ないことにする| |~飯を食う|食事する|生活する| 意味の派生:多義語における基本的意味(基本義) からの意味の拡張 #endregion ***第九講目の内容 [#w6c2190b] #region(動詞の活用) ''動詞の活用'' 「語幹」=変化しない部分 「語尾」=変化する部分 #br 動詞の活用に関する4つの分析 ||分析单位|出発点|h |分析1|拍|タイプA・タイプBの活用に五十音図の構造を見る。| |分析2|~|タイプAの活用に五十音図の構造を見る。| |分析3|音素|~| |分析4|~|活用しないものは語尾とみなす。| #br -「拍」を単位とする分析 |>|>| |>|>|分析1(学校文法)|>|>|分析2|h |>|>|~|語幹|語尾||語幹|語尾||h |Aタイプ|五段活用動詞|帰る|かえ|る||かえ|る|| |~|~|帰り、|~|り||~|り|| |~|~|帰れ|~|れ||~|れ|| |~|~|帰ろう|~|ろ||~|ろ|| |~|~|帰らせる|~|ら|せる|~|ら|せる| |~|~|帰らない|~|ら|ない|~|ら|ない| |~|~|帰った|~|っ|た|~|っ|た| |Bタイプ|一段活用動詞|変える|か|える||かえ|る|| |~|~|変え、|~|え||~||| |~|~|変えろ|~|えろ||~|ろ|| |~|~|変えよう|~|え|よう|~|よう|| |~|~|変えさせる|~|え|させる|~||させる| |~|~|変えない|~|え|ない|~||ない| |~|~|変えた|~|え|た|~||た| -「音素」を単位とする分析 |>|>| |>|>|分析3|>|>|分析4|h |>|>|~|語幹|語尾||語幹|語尾||h |Aタイプ|子音語幹動詞|帰る|kaer|u||kaer|u|| |~|~|帰り、|~|i||~|i|| |~|~|帰れ|~|e||~|e|| |~|~|帰ろう|~|o|o|~|oo|| |~|~|帰らせる|~|a|&color(Blue){seru};|~||&color(Blue){aseru};| |~|~|帰らない|~|a|nai|~||&color(Blue){anai};| |~|~|帰った|&color(Blue){kaet};||ta|~|ta|| |Bタイプ|母音語幹動詞|変える|kae|ru||kae|ru|| |~|~|変え、|~|||~||| |~|~|変えろ|~|ro||~|ro|| |~|~|変えよう|~||yoo|~|yoo|| |~|~|変えさせる|~||&color(Blue){saseru};|~||&color(Blue){saseru};| |~|~|変えない|~||nai|~||&color(Blue){nai};| |~|~|変えた|~||ta|~|ta|| >''学校文法の活用表に関する補足'' テキストを含め、分析1(学校文法の活用表)は問題があるとされることが多いが、 「拍を単位として、動詞の活用に五十音図の構造を見る」ことは一つの見方として成立する。 #br ただし、学校文法の活用表は古典語の活用表を現代語にあてはめており、形態が異なるものに同じ名称を与えている点は問題がある。 現代語では動詞の「終止形」と「連体形」は同じ形なので、一つの枠にまとめても良い。 |>|>|現代語に即した学校文法の枠組みでの活用表(活用形の名称は仮称)|h |活用形|五段活用|一段活用|h |終止・連体形|書く|起きる| |ナイ接続形|書か(ない)|起き(ない)| |マス接続形|書き(ます)|起き(ます)| |バ接続形|書け(ば)|起きれ(ば)| |命令形|書け|起きろ/起きよ| |ウ・ヨウ接続形|書こ(う)|起き(よう)| |夕接続形|書い(た)|起き(た)| #br 日本語の不規則動詞/変格活用の動詞は「する」「来る」のみ。 「行くも一部不規則。(「書く」「就く」が「書いた」「就いた」なのに対して「行く」は「行った」) |~刷る|すらない|すらせる|すります|する|すれば|すれ|すろう| |~着る|きない|きさせる|きます|きる|きれば|きろ|きよう| |~する|しない|させる|します|する|すれば|しろ|しよう| |~来る|こない|こさせる|きます|くる|くれば|こい|こよう| #br 「ラ抜きことば」は「可能形の作り方を統一し、すべての動詞で受身形と可能形を形式的に区別する」という合理的な変化。 #endregion ***第十講目の内容 [#w3ae01ed] #region(文の構造) ''文の構造'' >''[[日本語]]の品詞'' -A:文の構成要素となるもの |>|品詞|例|h |>|~名詞|男,女| |>|~動詞|行く,する| |>|~形容詞|美しい,穏やかな,洋々たる| |>|~副詞|どきどき,幸いにして| |>|~連体詞|この,あらゆる| |~助詞|格助詞(名詞に付く助詞)|が,を,に,から| |~|提題助詞(名詞に付く助詞)|は| |~|とりたて助詞(名詞に付く助詞)|も,だけ,さえ,こそ| |~|接続助詞(述語に付く助詞)|ので,から,が,でも| |~|終助詞(述語に付く助詞)|よ,ね| |>|~助動詞(接辞)|ない,(さ)せる| -B:文と文の関係を表すもの 接続詞:それで、だから、しかし、ただし、だったら ...等々 -C:単独で発話になるもの 感動詞: あ!、え?、へえ ...等々 -D:語の構成要素となるもの(接辞) 接尾辞:-方、-さ、-的、-中 ...等々 接頭辞:お-、御-、準-、反- ...等々 文の骨格をなすのは、名詞(体言)、述語(用言:動詞・形容詞)、格助詞(名詞と述語の意味関係(格)を表す)の3つ。 #br |~述語|動詞など&br;「行く」「行った」「高い」| |~必須補語|主体や対象など&br;「私が」「山形に」「映画を」| |~副次補語|比較の基準や目的など&br;「昨日より」「新宿で」「旅行に」| #br 提題助詞があるものを[有題文]、ないものを[無題文]という。 提題助詞は、文の主題(題目、topic、theme)を提示し、後に解説を加える。[事物を主題としてとりたてる。] 「今日は昨日より気温が高い。」 「太郎には言った。」 とりたて助詞は、他の事物がどうかを暗示する。[事物をとりたてて他と対比させる。] 「太郎も来た。」[同類] 「太郎さえ来た。」[極端] 「太郎だけ来た。」[限定] 「太郎こそ天才だ。」[卓立] 連体詞は、名詞の前に置いて、名詞が表す内容を限定・修飾する(その専用形式)。 副詞は、述語の前に置いて、述語が表す内容を限定・修飾する。 #br 助動詞は、述語に付いて、特定の意味を付け加える。 #br 文につく助詞には、 ①「-から、-が」のように文を終わらせずに別の文を続けるための助詞(接続助詞)と、 ②「-よ、-ね」のように話し手の気持ちを表す助詞(終助詞)がある。 #br |~単文|単一の文からなる文。(述語が1つの文。)| |~複文|2つ以上の文からなる文。(述語が2つ以上の文。)| |~主文(主節)|複文の中で中心となる文。(単文は主節のみからなる文。)| |~従属文(従属節)|文の中に埋め込まれた文。| >''「主題-解説」の構造'' (どんなことがあったかと言うと)台風が近づいてきた[出来事]。 台風は[主題](どうなったかと言うと)すでに過ぎ去った[解説]。 #endregion ***第十一講目の内容 [#j299a193] #region(「動作(スル)」と「変化 (ナル)」) ''「動作(スル)」と「変化 (ナル)」'' 動作主の動作(スル)として述べるか、対象の変化(ナル)として述べるか。 ⇨動作主と対象のどちらを主格(文の主役)にするか。 #br [[英語]]は「スル的表現」、[[日本語]]は「ナル的表現」を好む。 |日本語[ナル]|英語[スル]|h |出発の日が決まった。|We have decided the date of our departure.| |この千円札、くずれますか。|Can you break this 1,000 yen bill for me?| #br 日本語は、「変化(動作の結果)」の自動詞と「動作」の他動詞が「自他の対応」をなす。 (例:「ビルが建つ。」↔「太郎がビルを建てる。」) 日本語学習者にとって、日本語の自動詞・他動詞の使い分けは面倒。 #br 中国人の学習者は「ビルが建っている」という表現に違和感を持つ。 日本語は「自他の対応」だが、[[中国語]]は「動作-結果」の複合動詞(中国語文法で言う動補構造)が自他同形。 中国人学習者にとって、「動作」と「結果」をいちいち組み合わせるのは面倒。 |~他動詞的|我把车&color(Red){修好};了。|私は車を修理して直した。| |~自動詞的|车&color(Red){修好};了。|車が(修理した結果)直った。| //但し、「饭做好了(食事ができた)」などのように日本語に近い表現をすることはある。 #endregion #region(ヴォイス) ''ヴォイス'' ヴォイス(voice、態):どの事態参与者を主格(=文の主役)にするか #br 例文「学生が先生に文法用語を覚えさせられていたらしいね。」における述語句の構造と文法カテゴリーを考える。 |例文|語彙素|>|文法カテゴリー|h |学生が先生に文法用語を覚え|(省略)|(省略)|(省略)| |させ|させる|使役|ヴォイス(態)| |られ|られる|受身|~| |てい|ている|状態|アスペクト(相)| |た|た|過去|テンス(時制)| |らしい|らしい|推定|判断のモダリティ| |ね|ね|確認|伝達のモダリティ| ※モダリティとは、話している内容や聞き手に対する話し手の判断や態度に関する言語表現の概念体系である。 「かもしれない」や「なければならない」などが含まれる。様相性とも言う。 |~文|~命題|~事態|学生が先生に文法用語を覚えさせられ| |~|~|>|ていた| |~|>|>|らしいね。| #br ヴォイス(事態参与者の格表示の調整)には二つのタイプがある。 主格変更型と主格追加型である。 ||役割|例文|h |~主格変更型(-(r)areru)|①直接受身、持ち主の受身|太郎の財布が泥棒に盗まれた。[直接受身]&br;太郎が泥棒に財布を盗まれた。[持ち主の受身]| |~|②自発|太郎動作主には故郷対象がなつかしく思い出される。[自発]| |~|③可能|太郎に納豆が食べられる(とは意外だ)。[可能]| |~主格追加型|①使役(-(s)aseru)|花子が太郎を笑わせた。[使役:ヲ使役]&br;花子が太郎に買い物に行かせた。[使役:ニ使役]| |~|②受益(てもらう)|花子が太郎に買い物に行ってもらった。[受益]| |~|③間接受身(-(r)areru)|太郎が子どもに泣かれた。[間接受身(迷惑の受身)]| 「太郎が花子に髪を切られた。」という文章は二義的である。 #br >''使役文の意味'' 使役は事態を引き起こす。事態の引き起こし方には複数のやり方がある。 ||引き起こし方|例文|h |~強制|積極的に働きかけて事態を引き起こす。|子どもが外で遊びたくないと言うのを、むりやり外で遊ばせた。| |~許可・放任|事態の実現を許容して受け入れる。|子どもが外で遊びたいと言うので、外で遊ばせた。| |~阻止失敗|事態の阻止に失敗して被害を受ける。|長雨で野菜を腐らせてしまった。| #br 「強制」「許可」「阻止失敗」に類する区別は、他動詞文にも見られる。 -花子が太郎の髪を切った。 →「髪が切れた」状態を太郎に与えた。 -花子が美容師に頼んで髪を切った。 →「髪が切れた」状態を受け入れた。 -太郎がボクシングの試合で殴られて目の上を切った。 →「目の上が切れる」ことの阻止に失敗した。 >''可能文'' 可能表現は、大きく「能力・心情可能(動作主の内的要因)」と「状況可能(外的要因)」に分類される。 [[日本語]](標準語)の可能表現は「能力・心情可能」と「状況可能」の両方を表す。(方言によっては、両者が異なる形式で表される。) |前文脈|標準語|方言|分類|h |ラブレターなんか恥ずかしくて|書けない|ヨー 書カン|心情| |「ユウウツ」なんていう字は難しくて|~|~|能力| |便がないので手紙が|~|書カレヘン|状況| 日本語の可能形は「意図的な動作の結果が出るか否か」を表す(ナル的表現に近くなる)。 動作の結果で生ずる変化を表す動詞では、可能形は成立しないが、可能形でなくても可能の意味を含む。 #endregion ***第十二講目の内容 [#mb54bc24] #region(アスペクト・テンス・モダリティ) ''アスペクト・テンス・モダリティ'' |~アスペクト(aspect、相)|事態を「動き」として述べるか「状態」として述べるか| |~テンス (tense、時制)|事態が時間軸のどこに位置するか| |~モダリティ(ムード)(modality、mood、法)|話し手の判断様式、聞き手への伝達様式| #br |>|~ |>|~アスペクト| |~|~|~動き(非状態)|~状態| |~テンス|~非過去(現在・未来)|スル|シテイル| |~|~過去|シタ|シテイタ| [[中国語]]にはテンス(時制)はない。 >''「ている」'' 「ている」の意味用法は意外に広い。 |用法|例文|h |~(動作開始後の)動作継続|テレビを見ている。(=見続ける)| |~(変化完了後の)結果状態維持|椅子に座っている。(=座り続ける)| |~(変化完了後の)結果状態残存|ガラスが割れている。| |~反復|最近不祥事が続けて起こっている。| |~完了|彼は(すでに)大学を卒業している。| |~経歴|モーツァルトは1788年に交響曲を3曲書いている。| #br [[中国語]]の継続形は[[日本語]]の「ている」と基本的な性質が異なる。 例えば、「ガラスが割れている」は「玻璃碎了(ガラスが割れた)」であり、継続ではなく完了で表す。 「動き」の表現と「状態」の表現の使い分けは、出来事の前後関係と関係する。 |~継起関係|外に出た&color(Green){[動き]};。雨が降ってきた&color(Green){[動き]};。| |~同時関係|外に出た&color(Green){[動き]};。雨が降っていた&color(Green){[状態]};。| #br >''「した」'' 日本語の「した」は、出来事実現の過程の一端を話し手が把握していなければ使えない。 出来事の実現過程を話し手が把握していない場合は「している」を用いる。 ・あのう、これ、壊れました。→壊れる前を知っている。 ・あのう、これ、壊れてました。→壊れた後の状態しか知らない。 #br 「しなかった」は「しないまま終わった」ことを表す。 「そのような事実はない」「身に覚えがない」という時は、「していない」で述べなければならない。 #br 「あなた、ここにあったケーキ、食べたでしょ。」 「いや、食べなかった。」(→どうしようかと思ったが、食べなかった。) 「いや、食べてないよ。」(→そのような事実はない。) #br >''「た」'' 「た」の意味用法も意外に広い。5〜7のような用法は、話し手の心的態度を表す「ムードのタ」と呼ばれる。 |番号|例文|働き|h |1|「昨日の授業、出た?」「いや、出なかった。」|過去| |2|「ピッチャー、第1球、投げました。」|実現(直前の過去)| |3|「レポート (もう) 出した?」「いや、まだ出していない。」|完了(完了のニュアンスをともなう過去)| |4|「明日って、何か予定あったっけ?」|思い出し(過去に得た情報)| |5|「昨日宿題をやっておけば、明日は休めた。」|反事実(過去に有効だった筋書き)| |6|(探していたものを見つけて)「なんだ、ここにあったのか。」|認識更新 (把握していなかった過去の実情の認識)| |7|(探していたものを見つけて)「あ、あった!」|発見の「た」| |8|「生まれた子はどっちだった?」「男だったよ。」|| 8のような「観察してみたら・・・だった」という意味の文は、 現在も存在する状態の「過去の観察行為の結果、観察された部分」を取り出して述べている。 7のような「発見の『た』」も「発話時直前の観察結果」を述べる文。 >''モダリティ(ムード):話し手の心的態度'' |>|>|文(発話)の意味の2つの側面|h |>|~叙述の素材としての客観的な意味|命題(proposition)| |~文の述べ方に関わる主観的な意味(話者の心的態度)|モダリティ (modality)|判断のモダリティ(命題目当てのモダリティ)| |~|~|伝達のモダリティ (聞き手目当てのモダリティ)| #br モダリティ表現は多岐にわたる。 |~述語の活用形|行く(断定),行け(命令),行こう(意志・勧誘)| |~述語付加形式|行きそうだ(兆候),行きたい(願望),行かなければならない(義務) など| |~終助詞|いいよ(強調),いいね(確認),いいねえ(感嘆) など| |~副詞|おそらく(推量),はたして(疑念),決して(否定) など| |~感動詞|あ(驚き),お(注目),あれ?(意外) など| |~間投助詞|これは%%%ね%%%,これって%%%さ%%% など| |~誰かいる。|命題「誰かいる」+ 断定| |~誰かいるか?|命題「誰かいる」+ 問いかけ| |~おそらく誰かいるだろう。|命題「誰かいる」+ 推量| |~おそらく誰かいるだろうね。|命題「誰かいる」+ 推量+確認| |~きっと誰かいるんだろうね。|命題「誰かいる」+ 説明+推量+確認| >''法助動詞の意味'' |~拘束的用法(deontic use)|行為実行に関する判断、当為的意味| |~認識的用法(epistemic use)|事態成立に関する判断、認識的意味| -[[英語]] |単語|拘束的用法(行為遂行)|認識的用法(事態成立)|h |will|意志(よう/う)|推量(だろう)| |can|できる|ありうる| |may|してもよい|かもしれない| |must|しなければならない|にちがいない| |should|べきだ|はずだ| -古代[[日本語]] |単語|拘束的用法(行為遂行)|認識的用法(事態成立)|h |む|意志・勧誘|推量| |まじ|打消意志|打消推量| |らむ・けむ|✕|現在推量・過去推量| |べし|当然・義務・適当・意志・決意|強い推量| -現代日本語 |単語|拘束的用法(行為遂行)|認識的用法(事態成立)|h |よう/う|意志・勧誘|(推量)| |だろう|✕|推量| |まい|打消意志|打消推量| |べきだ|当然・義務|✕| |はずだ|✕|確信| #endregion ***第十三講目の内容 [#f046f7dc] #region(指示詞とダイクシス) ''指示詞とダイクシス'' 指示詞(コ・ソ・ア)による指示には三つのタイプがある。 -現場指示(直示用法) (話し手のそばにあるものを指して)これ、何? -観念指示 A:昨日飲んだワインですけど、あれ、どこのワインですか? B:あれはチリのワインです。 -文脈指示 A:この間、井上先生のお宅で、丸っこい形の麺みたいなものを食べました。 B:それ(=あなたが今言ったもの)は“猫耳朵”ですよ。 #br #br |~現場指示|発話現場にあるものを指さす。(コ・ソ・ア)| |~観念指示|話し手(と聞き手)が知っているものに言及する。(ア)| |~文脈指示|先行文脈に出てきたものを受ける。(ソ・コ)| |~|後に続く内容に注目させる。(コ)| ※「観念指示」と「文脈指示」をまとめて「文脈指示」と呼ぶこともある。 #br |~現場指示|直示(現場)|経験(事実)| |~観念指示|非直示(非現場)|~| |~文脈指示|~|非経験(情報)| >''現場指示における「対立型」と「融合型」'' |~対立型|CENTER:私の領域(コ)🆚あなたの領域(ソ)| |~融合型|CENTER:私(我々)の領域(コ)🆚 私(我々)以外の領域(ア)| -対立型:聞き手がいる場所 (海外にいる知人にメールで)こちらは暑いですが、そちらはどうですか? -融合型:話し手と聞き手から少し離れた場所 (タクシーの運転手に客が)そこの角を右に曲がってください。 >''現場指示とも文脈指示とも取れる例'' (AがBの背中をかいている) A:どこがかゆいの? (特定の場所をかいて)ここ?[現場指示] B:いや、そこじゃない。[?] |>|CENTER:「そこ」に対する説明|h |~説明1|聞き手領域を指す現場指示。話し手の背中だが、話し手には直接見えず、聞き手に直接見えているので、聞き手領域に属する。| |~説明2|文脈指示。「あなたが今『ここ』と言った場所」の意。| #br >''ダイクシス(deixis)'' 発話場面に依存して解釈される言語表現 |~人称ダイクシス|「私、あなた」など| |~空間ダイクシス|「こ、そ、あ」(指示詞)、「行く、来る」など| |~時間ダイクシス|「今日、昨日、明日、さっき」など| >''「行く」と「来る」'' |単語|イメージ|例|h |~「行く」|👁️→|息子が私の代わりにそちらへ行きます。3時頃には&color(Red){行く};と思います。| |~「来る」|→👁️|息子が私の代わりにそちらへ行きます。3時頃には&color(Red){来る};と思います。| -東京に{行った/?来た}ことはありますか? [「来る」が使えない。] -東京に{行く/来る}ことがあれば、ぜひ連絡をください。 [両方使える。] -今度ぜひ東京に{?行ってください/来てください} [「行く」が使えない。] >''授受表現(やりもらい)'' |例文|授受|h |私は子どもにお年玉をあげた。|与え手主語:私からお年玉が行く。| |母が私にお年玉をくれた。|与え手主語:私にお年玉が来る。| |私は母からお年玉をもらった。|受け手主語:私にお年玉が来る。| 「与え手主語」「受け手主語」の区別は一般的。 (例: 教える/教わる,売る/買う,借りる/貸す) #br |言語|与え手主語(与える)|受け手主語(得る・受ける・受け取る)|h |[[英語]]|give|get/receive| |[[中国語]]|给|受/得| |[[韓国語/朝鮮語]]|주다|받다| だが、「あげる・くれる」にあたる区別を持つ言語は少ない。(英語は全て「give」、中国語は全て「给了」) #endregion ***第十四講目の内容 [#zca9010f] #region(文章とテンス・アスペクト、接続詞) ''文章とテンス・アスペクト、接続詞'' 「動き」の表現と「状態」の表現の使い分けは、出来事の前後関係と関係する。 |~継起関係|外に出た[動き]。雨が降ってきた[動き]。| |~同時関係|外に出た[動き]。雨が降っていた[状態]。| >''歴史的現在(histrical present)'' 過去に起きた出来事を、あえて「現在」の形(現在時制)を使って表す技法 #br -例(芥川龍之介「羅生門」) 雨は、羅生門をつつんで、遠くから、ざあっと云う音をあつめて来る。夕闇は次第に空を低くして、 見上げると、門の屋根が、斜につき出した&ruby(いらか){甍};の先に、重たくうす暗い雲を支えている。 >''接続詞の研究'' ①接続詞の意味の体系 ②類似の意味の接続詞の使い分け |~順接|「だから」|後に続くのは既定事項。| |~|「それで」|後に続くのは先行文脈と何らかの形で関連する内容。| |~逆接|「しかし」|「その一方で」という気持ちを表す。| |~|「でも」|「結論は変わらない」という気持ちを表す。| |~|「ところが」|続くのは「話し手にとって意外で戸惑う」内容。| #endregion ***第十五講目の内容 [#y2d9bd1c] #region(まとめ) ''まとめ'' >''言語学・日本語学とは何か'' 言語学(linguistics)は「言語(ことば)」を対象とした研究。 日本語学は「日本語言語学 (Japanese Linguistics)」と言う。 言語学にはさまざまな研究分野・研究テーマがある。 言語はどのようにできているか? 言語の多様性や言語の変化はいかにして生み出されるか? 人間が言語を発し、理解するとはどういうことか? 人間が言語を習得するとはどういうことか? 言語は人間の思考や社会・文化のあり方とどう関係するか? 言語(ことば)は人間にとって最も身近かつ重要な存在の一つ。 身近で重要なもののしくみを理解することは、人が生きていくうえで重要。(体や自然の仕組みを理解することが重要なのと同じ。) #br 私たちは言語を用いて日常生活を送っているが、日常生活において言語について考えることはない。 言語に関しては多くの人が「ボーっと生きている」状態。 そのため、言語について何かそれらしいことを言われると、簡単に「言われてみればそうだ」となってしまう。 何か考える必要が生じても、何をどう考えればよいかわからない。 言語について知ることは、言語、ならびに言語に関する言説と適切に向き合うために必要なことである。 >''日本語は「音の種類が少ない」か'' [[日本語]]に同音異義語が異常なまでに多いのは、日本語の音の少なさに原因があるとされることがある。 本当にそうだろうか。 #br |~音節(syllable)|母音を中心とする音のまとまり| |~拍(mora)|「仮名「文字(+小仮名)」の単位。例えば「しや」は2拍、「しゃ」は(1拍)| [[中国語]]の「音節」と同じように日本語の「音節」の数を数えると約780種類 (二重母音を除いても364種類。) 外来語音(日本語で用いられている子音で発音可能)を含めると、音節の種類も拍の種類も増える。 #br 更にアクセントによる語の区別(例:「飴」「雨」)も加味すると、日本語の音の種類は「異常なまでに少ない」とは言えない。 -カバー率 語彙調査に基づき、ある資料で使用された語を使用率順に並べ、上位何語の語で その資料の使用語彙の何パーセントを占めるかを表したもの > ''日本語は「語彙量が多い」か'' 日本語では1単語で表せる意味が狭く、似たような単語が微妙なニュアンスの違いで使い分けられているので、 学習しなければならない語彙の種類が増えてしまうとされている。 恐らく実際に日本語は語彙量が多いのだろう。 #br カバー率の元となるデータは何か(文学、新聞、雑誌、会話・・・)。何をどのように計算した数値か。 カバー率が高いフランス語の語彙は、日本語の語彙より習得しやすいか? #br 日本語の方が単純だと考えられる日常レベルの表現は、‘Mr./Mrs./Miss Yamada'に対する「山田さん」など、ごくわずかであろう。 #br (とくに日本人)にとっては、語形の学習の負担は小さいにしても、語義の学習の負担は決して小さくはないことを考える必要がある。 いずれにしても、フランス語のこのようなカバー率の高さとよく指摘される抽象表現志向とが深い関係にあることを見落としてはならない。 日本語は、抽象表現にあずかる語が少ない上に、個別的具体的表現を好む言語で、 待遇表現・音象微語などに見られるような〈即場面性〉〈即個別性〉〈相対的表現〉の強さが、 異なり語を多くしていることを考え合わせなければならない。 >> ''国立国語研究所(玉村文郎) 1984:100-103'' 日本語では語彙面で 90%以上の理解を可能にするためには、上位約10,000 譜を覚えなければならず、 基本語彙というときにも、最低5,000~7,000語が必要になるということである。 #endregion }} *コメント [#comment] #pcomment(,reply,20,)